先日、昨年の調査ですが「宿泊者アンケートの意識調査」というものを見つけました。参考になりましたので、披露させていただきたいと思います。
この調査は、クリアンと言う旅館・ホテルに特化したアンケート制作サービスを手掛ける企業が実施しています。
宿泊者がどのくらいの頻度でアンケートに回答するかというと、
・約20%の人がよく回答する
・約20%の人がごくたまに回答する
・約60%の人が回答したことがない
と言うことでした。
飲食店でのアンケート回答は、今までの私自身の経験から肌感覚で言うと「回答する」人はそれよりも少なくなるのではないかと思います。
アンケートを回答したことがない人の理由としては、
「面倒くさい」が約50%と圧倒的な比率になっています。
全ての方に回答していただくことは困難だとしても、アンケートに答えてみたいと思わせる工夫の必要性を感じます。
一方で回答した方の、「回答して良かった」と思えるのはどんなとき?の回答(複数回答)は、
・「回収の際、お礼を言われたとき」(1位)41%
・「次回利用時、問題が改善されたとき」(2位)34%
・「お礼のメールが届いたとき」(3位)27%
となっていました。
ここからは、このアンケート結果と気付きから少し深掘りしてみたいと思います。
先程の「回答して良かった」と思えるのはどんな時?の回答の上位3位の共通点は、「施設への貢献」という感覚にあるのではないかと思います。アンケート回答者は、施設・店舗の改善に参加することで自分が重要な働きを果たして貢献しているという感覚を持つのではないでしょうか。
自分の意見が施設・店舗の改善に役立ったと感じると自分には必要な能力があると自信が持て自己効力感が高まります。また店舗からのフィードバックは、自分の意見が評価されていると感じ自己肯定感が高まります。
このように自らに価値があると感じられるポジティブな感情が施設・店舗への好意的な印象になり、より積極的な行動になると考えられます。人々は自分の行動と信念が一致するようにしたいと言う認知的一貫性があります。つまりアンケートに回答して施設・店舗へ貢献していると言う気持ちが口コミなどの応援と言う形の具体的な行動に繋がるのだと考えています。
施設・店舗側にとってアンケート収集の目的は、「顧客を知る」、「顧客の評価を知る」、「顧客のニーズを知る」ためのものです。またそのデータを改善に活用することにあります。
今回のアンケート結果を基にした心理面の深掘りからアンケート収集するという活動は、データを分析するための単なる事前準備ではなく、その行動自体に顧客ロイヤルティを高める効果があることが分かります。アンケート収集が滞っている施設・店舗の方には、その活動自体の効果を認識して気持ちを新たに取り組んでいただければ嬉しいです。
ディーアンドアクト合同会社 代表社員 宮本 好之
昨日(2024.05.22)の日経新聞朝刊に上記タイトルの見出しがありました。
前回のコラムで人事評価について記載したことと、過去には正しい目標設定について日経に寄稿したこともあるため記事について少し考えてみたいと思います。
*参考に以下のコラムをお読みください。
2024.03.15 COLUMN 25 : 顧客評価を人事評価に加味することについて
2023.09.21 【日本経済新聞/私見卓見】「正しい目標設定で顧客の満足を」
2023.08.07 COLUMN 20 : 不祥事(ビッグモーター保険金不正請求問題)
記事の要約は、以下の通りです。
損害保険ジャパンの石川耕治社長は、評価制度や目標設定を大幅に見直す方針を示した。評価で重視してきたマーケットシェア目標を廃止し、営業目標の設定を現場に委ね、過度な利益重視や上意下達の企業風土を刷新する。これは、不正請求問題で金融庁から業務改善命令を受けたことを背景に、営業優先の体質を改善し信頼回復を目指すためだ。
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つまりビッグモーターとの不祥事の原因と考えられる評価制度を改定し、組織文化の見直しを進めると言うものです。
損保ジャパンの人事評価では、これまでトップライン(保険料収入)とマーケットシェアが大きく影響する設計となっていたようです。他社との競合に勝ち、市場成長率より高い成長が求められることは、強いプレッシャーとなりますが、営業部門とすれば至極当然のことであるとも考えられます。
それでは何故、金融庁から業務改善命令を受ける事態になったのか?
損害保険ジャパン石川耕治社長はインタビューで、社員が目標を達成できたか「白丸黒丸で評価する星取りのようなことはやめる」とあります。これは目標であるトップラインとマーケットシェアが絶対であり、それ以外の要素はあまり考慮されない、つまりそれぞれの置かれた環境やプロセスは人事評価に加味されていなかったのではないかと想像出来ます。
白丸黒丸で判断するのであれば、人事評価は容易いものとなりますが、それは組織を間違った方向に導いてしまうのだろうと思います。損害保険ジャパンでは今後、営業目標の設定を現場に委ねるとあります。これからはそれぞれの現場で環境に応じた目標設定がなされると思いますが、評価制度では営業活動のプロセス行動も評価として一定の比重を置いてもらいたいです。これが無ければ組織を正しい方向に導くことは出来ないと思っているからです。
プロセス行動の人事評価は難しく、評価者により評価がばらつくことも考えられますが、評価者研修等でフォローが出来ます。営業は結果が全てと言われることもありますが、この考え自体が間違った組織文化を醸成してしまうと考えています。プロセスを評価することになれば、評価者(上司)は被評価者(部下)の考えをよく聞き、行動を観察し、被評価者にフィードバックしなければなりません。このことを愚直に実践することでコミュニケーション強化につながり目指すべき組織文化に近づくことが出来ると考えています。
ディーアンドアクト合同会社 代表社員 宮本 好之
外食企業では顧客アンケート評価や覆面視察評価を店長の人事評価に加味していることがあります。それぞれの企業の考え方があり、それについて賛否する立場にありませんので、「私自身が経営者であれば、どのようにするか?」との問いで考えてみたいと思います。
まず考慮すべきことは、モニターによる覆面視察の評価とリアルな顧客アンケートを分けて考えることです。モニターによる覆面視察による評価を考えてみます。
覆面視察はある程度、教育を受けたモニターが店舗の状況をある基準に則って評価項目をチェックするものです。
これにより店舗で
・本来、成すべきことが出来ているか、
・出来栄えはどの程度か、
・今まで気づかなかったオペレーションでの不具合は無いか
・特に素晴らしいトピックスは無いか
など、経営者が普段得られない情報が手に入ります。
この情報の活用方法は様々あると思いますが、店長の人事評価に加味することについて検討してみると、この調査時間のこの一事で評価することのバラつきの懸念があります。
偶々スムーズに運営されていた、偶々オペレーションが乱れていた、偶々未熟なスタッフが多かった、偶々・・・
月間、年間になればそれなりのデータになるのかもしれませんが、時機もばらつくため重要な人事評価に加味するにはデータが少なすぎ採用にはためらいがあります。
次は、リアルな顧客からのアンケートによる評価です。アンケート収集の仕組みがオペレーションに組み込まれていれば、偶々と言うことが限りなく少なくなり、様々な時間帯での多くの評価を集められるため、リアルな顧客のリアルな実態の情報が得られます。この面では覆面視察の偶々ということが防げます。
しかし経営幹部の方と話していると、不正についての懸念を口にする方がいます。確かに性悪説の立場に立てば人事評価に影響を与えると言うことになれば、来客者になり切り架空のアンケートを入力してしまうことも考えられます。
これでは顧客の評価情報を基に店舗力の向上を目指す取り組みが無に帰してしまいます。
健全な組織でそのような不正が起こらないと確信があれば別ですが、万一、不正の懸念が少しでもあるなら、私自身は顧客評価それ自体を人事評価に加味すべきではないと考えています。
本来、覆面視察報告や顧客アンケートは、
・その情報を基に店舗を改善し、
・顧客にもっと自店を好きになってもらい、
・自店に何度も来店してもらい、
・新しいお客様を連れてきてもらい
・自店を応援してもらい、
・売上・利益の拡大につなげるためのものです。
目指すべきは、売上・利益の維持拡大であり、顧客ロイヤルティなどの指標は、プロセス管理としての目標としては有効ですが、最終目標ではありません。
顧客アンケートに関連するものを人事評価に加えたいことは、指標などの結果ではなく、その取り組みプロセスを評価することだと考えています。つまり顧客のアンケート情報を分析し、スタッフとともにオペレーションや不具合を改善するプロセスやその姿勢を評価すべきだと考えています。
まとめになりますが、冒頭の問いには、
・顧客アンケートの評価や覆面視察評価自体を店長の人事評価には採用しない
・採用するのは、顧客アンケートデータや情報を基に、スタッフと全員で改善していく取り組みや姿勢を店長の能力としてそのプロセスを評価の対象とする
以上になります。
前回のコラムで日経新聞の私見卓見のコーナーに寄稿した「正しい目標設定で顧客の満足を」についてのキーワードは、“正しい目標は正しい行動を生む”だとお伝えしました。人事評価の対象にも正しい目標を設定しなければなりません。企業の環境や自社の状況を良く鑑みて設定することが大切です。
ディーアンドアクト合同会社 代表社員 宮本 好之
【日本経済新聞/私見卓見】「正しい目標設定で顧客の満足を」
内容については、お読みいただければ理解出来ると思いますので、こちらでは私見卓見に寄稿した内容に込めた想いをお伝えしようと思います。
お伝えしたいキーワードは、「正しい目標は正しい行動を生む」です。
ドラッカーは、目標とは事業にとっての基本戦略であるとし「事業の定義は、目標に翻訳しなければならない。そのままではせっかくの定義も、決して実現されることはない洞察、よき意図、よき警告に終わる」と言っています。
その意味では、目標は事業の具体化であるとも言えます。それ故、間違った目標では事業が破綻し、正しい目標だけが事業を継続出来ると言えるのではないでしょうか。
ディーアンドアクト合同会社 代表社員 宮本 好之
様々な記事や書籍を読み進めても、組織文化を醸成するには、経営者や経営幹部が企業のビジョンやミッション、バリューを、情熱を持って繰り返し伝え、組織メンバーが考え、討議し、体感していくというプロセスに収束していると感じます。勿論そのことを否定するわけではなく、大きく賛同します。しかしそうなると組織文化醸成の成否は経営者や経営幹部の情熱に左右されるという結論になってしまいます。
このように書くと意図する組織文化を醸成出来ないのは、経営者に情熱が無いからだと感じてしまいますよね。それは違います。経営者は忙しく、いつも、いつも経営者から組織メンバー全てに情熱を持って語り続けることだけに専念出来ません。それを補完する仕組みが必要であると思っています。
補完する仕組みとは、
顧客の声を聴き、自らの行動を振り返り、内省する、顧客の気持ちに寄り添い、自らの行動を改善する。この繰り返しをシステムとして習慣化することだ、と私は考えています。
顧客の声を継続的に聴くことを効率的に実施するには、適切な顧客アンケートを取り続けることだと考えています。自分たちの行動やその瞬間を顧客がどのように感じ、どのような評価をしているのか・・・そんな評価を適切に収集出来るアンケートを作りたいものです。
それには顧客の体験を想像し、カスタマージャーニーマップを描くことです。カスタマージャーニーの中で顧客が感じるであろう、不満や感動を想像し、自らの行動を設計することでオペレーションを組み立てます。オペレーションは、スタッフが確実に実践できるようスキルを獲得することが必要です。そうでなければ顧客の評価はばらついてしまいます。設計通りにオモテナシしたオペレーションを顧客に評価してもらいます。
自分たちの提供している商品や自分たちの行動がどのように評価されているか確認し、内省します。不具合や顧客に伝わっていないことがあれば改善していくことを繰り返します。トライ・アンド・ラーンです。
サービス業の実店舗で実施する顧客アンケートの優れているところは、自分たちの商品や行動に対して直ぐに反応が分かることです。トライ・アンド・ラーン、学んだことを直ぐに試行して反応が得られることは何ものにも代え難い価値があります。
スタッフにとっては、自分たちのオモテナシした結果が出てしまうので、振り返り、内省しなければならない環境が出来ています。
何を変え、どこを守るべきか? 難しい判断もあります。真のターゲットである顧客に響く“これだけは譲れないもの”を見定め判断しなければなりません。
これには組織のリーダーや幹部がより高い視座からの判断が必要になります。真のターゲットである顧客の声を聴き、内省し、変えるべき行動を変える。このトライ・アンド・ラーンを高速で回しチームで実践する。この流れを習慣化することが、顧客視点の組織文化を醸成することであると考えています。
難しい表現やわかりづらい内容もあったことをお詫び致します。これからも組織文化に付随する内容での掲載はあるかもしれませんが、連載での私の考える組織文化醸成論とその理論と実践はこれにて終了です。長々とお付き合いいただいた方には感謝申し上げます。
ディーアンドアクト合同会社/宮本好之
組織文化醸成論(1)の冒頭で記載したことを思い起こしていただきたいと思います。
顧客アンケートを活用した取り組みは、今までCOLUMNで書いてきたこと以外にもとても大きな効果をもたらしてくれます。そしてこれこそが究極の目的でもあります。
それは、顧客視点の組織文化を醸成することです。
長々と組織文化について考えてきましたが、リッツ・カールトンのような強いブランド力を持たない企業や店舗が、顧客視点の組織文化を醸成するには、どのようなことを実践すれば良いか考えていきます。
ここで意図した組織文化として何故、“顧客視点の”が付加されているのか説明しなければなりません。少しお付き合いください。
サービス産業だけではなく、メーカーに置いても顧客視点やお客様志向のような視点を持つことに異論を持つ人はあまりいないと思います。それ故に飲食店やホテル、理美容業、小売業などお客様が来店してオモテナシする店舗はほぼ全て、お客様のことを考えて店舗づくりを考えていると言うでしょう。
また商品を製造するメーカーもお客様の使い勝手を考えて設計していると言うでしょう。もちろんそうしなければ世の中に同じような店舗や商品が溢れる現在に置いて、店舗や商品は消え去ってしまいます。
しかし、現実にビジネスを進める上では、たとえ分かったとしても顧客の希望を全て叶えるわけにはいけません。費用面や効率面、また自らの技術面等など制限が加わります。
例えば飲食店であれば
・費用面では、もう少しクオリティの高い食材を使いたいが、提供価格が高くなって今の店舗では使いきれない。
・効率面では、加工品を使えば効率は良くなるが、思った品質が保てない。
・技術面では、もっと繊細な料理を提供したいが技術が足りない等など、
どこかで折り合いを付けなければ必ず支障を来たします。
競合がやっていて評判が良いからやる、アンケートに要望があったら対応する・・では、収拾がつかなくなります。
そこで必要になるのが真の意味での顧客視点を持つことです。自らが定めたターゲットに対して、そのターゲットの心に刺さる、“これだけは譲れないもの”をいかに持つかと言うことです。
“これだけは譲れないもの”を顧客に提供するために他の面には、力を注げないかもしれません。しかしターゲットの心に刺さる“これだけは譲れないもの”は、徹底的に実践する、そんな姿勢が顧客視点であると考えています。
リッツ・カールトンには、「トップ5%の顧客層をコアターゲットとする」というブランド戦略があります。このトップ5%とは経済的な余裕や社会的地位を含めてトップグループに入るという意味ですが、そのトップ5%の方にサービスを提供するという意味ではなく、「トップ5%の方の感性を満足させるようなサービスを提供する」ということを目標としているようです。全ての従業員は、トップ5%の方が持つ感性を満足させられる程、高いレベルのサービスを提供するために自らの感性や技術を磨き続けているのだと思います。そしてこれこそがリッツ・カールトンの譲れないものだと思います。
私たちが成すべきことは、真の顧客視点をもつこと、つまりターゲットとなる顧客に寄り添い、“これだけは譲れないもの”を徹底的に追究し実践することです。そしてこれが顧客視点の組織文化であると考えています。
ディーアンドアクト合同会社/宮本好之
少し寄り道しましたが、組織文化醸成論の本論に戻ります。
組織文化醸成論(8)では、リッツ・カールトンの暗黙面(暗黙の深い仮定)が従業員に染み込む過程を勝手ながら分析してきました。
しかしながらリッツ・カールトンのように「ラインナップ」や「ワオ・ストーリー」のような施策がうまく機能するのは、優秀な人材が集まるからだと考える方もいると思います。
確かにそれは事実だと思います。リッツ・カールトンはホスピタリティ産業に係わる人間にとって憧れの存在であり、就職を目指す人も多くいると思います。また入社面接にはユニークな仕掛けがあるそうです。
これはリッツ・カールトン元日本支社長高野登氏が応募者へのインタビュアーとして参加した経験談です。
リッツ・カールトンの開業準備中のホテルの大宴会場で採用面接が実施されました。入口ではドアマンが応募者を出迎えます。会場にはグランドピアノがありプロのミュージシャンが演奏をしています。面接になるとウエイターが飲み物をお持ちします。
このウエイターはリッツ・カールトンの管理職が正装に着替えてオモテナシしているのです。この時には3,000人の応募者がこの雰囲気を見て半分くらいの人は、自分には合わないということで帰ってしまったようです。
実はこれには、リッツ・カールトンの「親切なおもてなし」の理念や価値観を知ってもらうことと、果たして自分がこの文化に適合できるのか考えてもらう仕掛けがあったのです。
要はリッツ・カールトンの組織文化に合うか否かお互いが選択していたと言うことが出来ます。
このようにリッツ・カールトンは、優秀で自らの組織文化に馴染む人材を採用出来ていると言うことが出来ます。
余談ではありますが、日本企業の採用制度についても新しい動きが始まります。
25年春からの新卒採用ではインターンシップのルールが変更され学生の評価を採用選考に活かせる「採用直結インターン」が一定条件のもと開始されます。
日立製作所では、求めるスキルを細かく明示するジョブ型インターンプランを1.6倍の440に増やして対応するようです。三井化学では、人事制度の課題改善や採用イベントの企画立案といった業務を用意し、人事関連分野を専攻する学生を募集したい意向のようです。
多くの企業が新制度に対応する背景には、企業側にとっては学生の能力評価とともに企業側・学生側の両者が実務経験を通して企業文化との相性を見極め、入社後のミスマッチを防ぐことに役立てようとする意図がありそうです。
それではリッツ・カールトンのような強いブランド力を持たない企業や店舗が意図した組織文化を浸透・定着させるためにはどのようにすべきか、次回は意図した組織文化を“顧客視点の組織文化”として考えていきます。
ディーアンドアクト合同会社/宮本好之
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