COLUMN 1

2023.08.07  COLUMN 20 : 不祥事(ビッグモーター保険金不正請求問題)  

不祥事(ビッグモーター保険金不正請求問題)

 最近の話題は、中古車販売大手ビッグモーターの保険金不正請求問題です。こういった不祥事が話題になると、企業文化や社風が影響していると言われます。短絡的には、ガバナンスの欠如や強烈なノルマに対する現場へのプレッシャーが原因と言われることが多いのではないでしょうか。

 組織文化醸成論の連載から少し脱線しますが、せっかく組織文化について学んできましたので、もう一段深く思考し気付きを得たいと思います。

 マスコミなどの情報を基に現象面を整理してみると、

・事故等の車体修理において、故意に車体を傷付けた他、不要な板金作業、部品交換など修理費の水増し請求が行われた

・単一事業所だけでなく、損傷手法のビデオもあり複数拠点にわたる組織的な犯行の疑いがある

・事業所の環境整備点検の対処として、街路樹への除草剤散布が行われた被害が散見されている

・グループLINEが多数存在し、日々パワハラやいじめが横行していた可能性がある

・営業至上主義の人事制度で予算は絶対であり、予算未達は降格、成績優秀者には昇格、高額報酬に応える信賞必罰の管理体制がある(全社員に明示される)

・保険契約のノルマを達成するために、社員が自ら保険料を負担した架空契約捏造疑惑が取りざたされている

・より事態を複雑にしているのは、保険代理店契約を結んでいた損保各社とのもたれ合いの構図がある(損保側は、不正に過大の請求を受けていたが、事故車を紹介することでビッグモーターからの保険契約を獲得していた)

 まだこれからも新しい事実が明らかになるかもしれません。

 以上の現象面の整理から見えてくるのは、トップの強いリーダーシップを背景に過度な目標(ノルマ)の重圧とトップの意向に忖度し、示達事項の順守とノルマ達成のみが至上命題となっている社員の姿です。

 性悪説に基づく理論でアメリカの心理・経営学者ダグラス・マクレガー氏が提唱したX理論(人間は生来怠け者で、強制されたり命令されたりしなければ仕事をしない)があります。

 ビッグモーターは、このX理論に基づく管理が徹底されていたのではないかと考えています。

 環境整備点検などで順守すべき事項を明示し、実施状況を徹底的に管理します。その基準に至らない場合、叱責、降格など独裁者の恐怖政治振りがうかがえます。

 また水増し請求の遠因となったものが「@アット」と呼ばれていた車両修理1件当たりの代金ノルマです。(@アット:作業代金及び交換した車両パーツの粗利益の合計額)

 本来、修理費用は車両の損傷状況によって決まるものであって営業努力とは異なると考えられます。「@アット」が常識的な範囲にあればまだしも、過剰なノルマであれば水増し請求を暗に指示しているとも受け取れます。

 何れにしてもビッグモーターでは、命令され、強制され、プロセスは問われない結果至上主義だけが貫かれていたのだろうと思います。

 ただX理論を基にした管理体制がすべて悪いわけではありません。製造ラインの業務や定型化された事務作業など、ミスが許容されない業務にはX理論に基づく管理が適切であると言われています。

 マクレガー氏が提唱したX理論の対立概念であるY理論は、「生まれながらに仕事が嫌いということはなく、条件次第で責任を受け入れ、自ら進んで責任を取ろうとする」というものです。業務内容や組織メンバーの状況により、このX理論とY理論を適切に使い分けることが必要であると提唱されています。

 ここで言う組織メンバーの状況とは、マズローの欲求5段階説で言うところの 

低次欲求(生理的欲求・安全欲求)が求められている段階では、X理論に基づく「強制と命令、仕事をやり遂げれば報酬を、未達であればペナルティを」という風に“アメとムチ”の管理手法が、

高次欲求(社会的欲求・承認欲求・自己実現欲求)が求められている段階では、Y理論に基づく、「目標と責任を与え、承認や賞賛で応えるエンゲージメントを強化する」管理手法が、

適切であると言われています。

 私の知るところでは、残念ながらビッグモーターでは、X理論を基にした管理体制でのみ絶対権力者による恐怖政治が支配していたと言えるのではないでしょうか。

 その組織文化に馴染めないメンバーは排除され、染められてしまったメンバーのみが存続し、更に組織文化が強化されたのかもしれません。

 不祥事は、最終的には倫理の問題に行き着くと言われています。不祥事のリスクを減ずるには、組織や個人が倫理的な価値観や責任を重視し、倫理的な行動を実践することが出来るような組織文化を構築することが必要です。

 マクレガー氏自身も、Y理論に基づくアプローチが、従業員のモチベーションやパフォーマンスを向上させる可能性が高いと主張していました。

 環境整備点検も従業員のあら捜しのツールではなく、清潔で整えられた環境でお客様をお迎えするためのツールとして活用されていれば、除草剤による枯れ木を生むのではなく緑や花のある環境が整えられたのだと思います。また「@アット」のようなお客様からより高い請求代金を求めるよりも、お客様満足やNPS®、ECIのような顧客との関係性を向上させるような目標であれば、従業員のモチベーションも高まり、倫理的な価値観が育まれたのではないかと考えています。

ディーアンドアクト合同会社/宮本好之

2023.08.03  COLUMN 19 : 組織文化醸成論(8)  

組織文化醸成論(

 改めて組織文化醸成論に戻ります。

 それではリッツ・カールトンは、どのようにしてクレドが浸透・定着したのか、もっと言えば適切な暗黙面(共有された暗黙の深い仮定)が共有されたのか、理解して我々は実践していかなければなりません。

 その前に、人はどうすれば考えや信念を変え、受け入れることが出来るのかを考えることが必要です。

 通常、経営理念やミッションを浸透させようとすると次のようなことが実行されます。

 リッツ・カールトンのクレドのように組織メンバーが携帯できるようなカードにしたり、オフィスの壁に掲示したり、社内報に掲載したり常に視覚的に触れるようにします。また、入社時の研修や定期的な会議・研修で幹部から講和を受けるなどが考えられます。

 しかし、これだけだと本質的な浸透には至らない可能性があります。

 人は、経験したり、エピソードなど物語を聞いたり、感情的に心動かされることで、より強く影響を受けると考えられます。自ら直接経験することは、感情的な要素を含み、記憶に残りやすくなります。エピソードやストーリーには、元来人は興味を惹かれる傾向があり、他人の経験や感情を共有することは、他人の視点や立場を理解するのを助けてくれます。経験やストーリーは感情に訴えるため、意思決定や判断に強く影響し共感につながります。

 組織メンバーに経営理念やミッションを浸透させるには、感情的に訴える経験やストーリーに触れる環境を作ることが効果的です。

 リッツ・カールトンはどうだったのでしょうか。

 有名なところではリッツ・カールトンには、「ラインナップ」(≒朝礼)があります。毎日、部署ごとにメンバーが集まり15~20分程討議します。討議内容はゴールド・スタンダードに関するもので、テーマは「クレド」や「モットー」について・・と言う風に週替わりで、そのテーマについて毎日違った質問が投げかけられ討議します。

 また「今日のベーシック」では20番まである項目を一つずつ読み、この日はこのベーシックを意識して仕事をすると言う風に日々取り組んでいるようです。自らゴールド・スタンダードについて考え、ディスカッションして思考を深めます。また意識して行動し、日々新たな経験を重ねることにより強固な観念が形成されます。

 全世界のリッツ・カールトンでは、お客様から感謝の言葉や手紙が届くことがあり、それらをエピソード事例として「ワオ・ストーリー」と呼んで全世界の従業員に共有しているようです。感動的なストーリーや同僚たちの工夫や最高のおもてなしに刺激を受け、感情的に心動かされるのではないでしょうか。

 このようにしてゴールド・スタンダードが全ての従業員に信じられる環境が構築されているのだろうと思います。

 これまで見てきたようにゴールド・スタンダードが信じられる環境の中で“自ら考えたり”、“行動したり”、“ストーリーに耳を傾けたり”する過程でゴールド・スタンダードは勿論のこと、以下の暗黙の深い仮定が体に染み込むのではないかと私は考えています。

・同僚や上司部下は、心の底から信頼出来、尊敬できる存在である(性善説)

・自分にとって組織とは自分自身が大切にされ重視してくれる存在である

・お客様への理解を深めなければ、本当に良い感動できるサービスは出来ない

ディーアンドアクト合同会社/宮本好之

2023.07.25  COLUMN 18 : 日経新聞「ニデックCEO/永守重信氏インタビュー」(2023/7/23)  

日経新聞「ニデックCEO/永守重信氏インタビュー」

 7月23日の日本経済新聞にニデック株式会社(旧日本電産)会長兼CEOの永守重信氏のインタビュー記事(直言~Think with NIKKEI)が掲載されました。非常に興味深い内容でしたので、組織文化醸成論をコラムとして連載している途中ですが、組織文化醸成論と絡めて記載してみたいと思います。

 見出しは「憎まれても買収、成長の糧」、前半部分でM&Aについて自らの考えを語っています。

・PBR問題(株価純資産倍率が1倍を切る上場企業が多い)の解決には、以前の敵対的買収、今でいう同意なき買収を政府や証券取引所が推奨すべき

・本当は実力があるのに経営がまずくて業績が低迷する企業は、正しいオーナーが買うことで見違えるように中身が改善する

・買収が活発になれば、どの会社の経営陣もぬるま湯に安住できず、改革に本気で取り組む。緊張感の高まりで産業の新陳代謝が加速し、マクロの生産性も上向く 

と持論を展開していました。

 私は、かなり以前に真山仁氏の小説「ハゲタカ」を読んでいたこともあり、今更ながら最近その続編である「ハゲタカⅡ(旧タイトル:バイアウト)」、「レッドゾーン」、「ハゲタカⅣ グリード」など読み進めていたので、しっかり腹落ちしました。

 多くの企業のM&A事例を見ていると、成功しているところは必ずしも多くは無いのではないでしょうか?

 総合後のマーケットの変化や組織構造・システム統合の失敗など原因と言われることもありますが、組織文化や価値観の不一致が一番の原因として語られることが多いように思います。

 ニデックは、企業成長の原動力としてM&Aを戦略的に活用し70件以上を実現させ、永守氏が一代で連結売上高2兆2,428億24百万円(2023年3月期)、連結従業員106,592名(2023年3月末現在)で精密小型モータの開発・製造において世界一のシェアを誇る企業にまで成長を遂げています。

 ニデックには価値観(Value)に三大精神があります。

・情熱、熱意、執念

・知的ハードワーキング

・すぐやる、必ずやる、出来るまでやる

 かなり個性的で永守氏の仕事へのかかわり方がうかがえます。(本人もインタビューでニデックをブラックだと批判する人もいると語っています。) 

 このように非常に個性的な組織文化を持つニデックが、恐らく全く違う組織文化を持つ企業を買収することで統合後にいかに成功を収めることが出来ているのか非常に興味がそそられます。

 インタビュー記事の中で、永守氏は成功事例の一端として2年前に買った三菱重工工作機械(現ニデックマシンツール)の事例を語っています。当時は「赤字で苦しんでいたが、今では営業利益率が18%に達した。1日1件だった営業マンの顧客訪問を5件に引き上げ、機械が故障した時はすぐにサービス要員を派遣する体制に切り替えた。工作機械のユーザーは中小企業が多い。機械が動かず困っている相手に『あさって修理に行きます』では通用しない」と価値観(三大精神)を移植している姿がうかがえます。

 勿論、訪問件数やスピーディな対応だけが成功要因ではなく、『中国に新工場をつくろう』という夢の共有や従来の会社の規模では難しかった設備投資の決定なども要因であったようです。

 どのようにして三菱重工工作機械にニデックの価値観が移植されたのか、ここからは想像ですが考えてみたいと思います。

 震災を契機に価値観が変化したという人も多かったと思います。震災や戦争などの災害だけではなく、進学や就職、結婚といった環境の変化も価値観が変わる切欠になります。三菱重工工作機械の従業員にとっての被買収は、赤字からの脱却という目的のために現状否定からスタートすることを受け入れざる得ない環境変化であったと思います。

 そこに「買収王」「再建王」とも異名をとるカリスマ永守氏が登場することで“信じなければ生き残れない環境”が作られ、永守氏のハードワーク振りは三大精神を自ら体現しており、理念や価値観が本当に信じられる環境が実現出来ていたのではないでしょうか。

 こうして暗黙面にまで組織文化が醸成されたのだと考えています。

 余談ですが、小説「ハゲタカ」の主人公鷲津政彦が被買収を防御する術を聞かれ「とにかく時価総額を上げる努力を怠らない。・・・」と答えています。永守氏はインタビューで後継者に相応しい人物は?と聞かれ、「ズバリ株価を上げる人。株価を上げようと思うと、猛烈に働く必要がある。新製品をどんどん出す。営業も英語も投資家向け広報もできる。そういうのを合わせて株価が上がる」と答えています。当然、永守氏は後継者を自らに重ね合わせていると思いますので、共通点として妙に納得してしまいました。

 鷲津政彦は、「どんな企業でも上場していれば、いつでも買収されるリスクにさらされている」と語っています。永守氏も買収を仕掛けているが故に、被買収のリスクを認識して、後継者に“株価を上げる人”を求めており、近年のニデックの株価低迷は許せないことであったのだろうと思います。

 参照:ニデックのPBR

    23年3月期 PBR2.9倍 (直近のピーク21年3月期 PBR7.18倍)

ディーアンドアクト合同会社/宮本好之

2023.07.24  COLUMN 17 : 組織文化醸成論(7)  

組織文化醸成論(

 前回は、リッツ・カールトンの事例を通して、表出面のミッションや戦略を実現するために暗黙面の組織文化を適切に構築しなければならないことを見てきました。決して表出面だけ真似して実現出来るものではないと言うことです。

 組織文化醸成論(4)で「暗黙面が支配的であり、それと首尾一貫した表出面のミッションや戦略、昇進システム、仕事の進め方であって、はじめて機能することになります」と書きました。しかし、そのことは“暗黙面が先で表出面が後”と言っているわけではありません。ここで表出面の組織文化と暗黙面の組織文化の関係について、考えを深めてみたいと思います。

 暗黙面の代表的な対象として人間性の本質(性善説・性悪説)があります。一般的に、性善説とは孟子が説いたとされ「人間は本質的に善良で、道徳的な行動を自然に選ぶ傾向がある」というものです。一方、性悪説とは荀子が説いたとされ「人間は本質的に自己中心的で利己的である」という立場です。

 企業に置いて、暗黙面が性善説の立場にある人事評価制度では、一般的に協力とチームワークが重視され、互いに助け合い共同の目標に取り組み、評価の際には個人の成果だけでなく、チームへの貢献や協力度も考慮される傾向にあります。

 暗黙面が性悪説の立場にある人事評価制度では、一般的に競争と個人のパフォーマンスが重視され自己の目標達成や成果の向上に取り組み、評価の際には目標達成による成果や貢献度に応じて昇進や報酬が与えられ、優れた成果を上げた者が優遇される傾向があります。

 以上のように一概に決めつけるわけにはいきませんが、一般的には暗黙面と表出面は首尾一貫していて機能すると考えられます。

 暗黙面は、表出化されていないが故に、組織メンバーに意識されていないかもしれませんが、大多数のメンバーが性悪説の立場にあれば、例え「協力が必要だ、チームワークだ!」と訴えたところで、個人のパフォーマンスに走ってしまう可能性があります。仮に暗黙面に置いて性善説の立場が定着しており、協力・チームワークを推奨する人事制度が機能している環境に、性悪説の傾向のあるメンバーが加入した場合どうなるでしょう。

 人間は、元来、善性と悪性の両面を持っていると考えるべきで、すっきり割り切れるものではありません。それ故、善性を持ったメンバーに囲まれ、善性が機能する制度のある環境においては、新しいメンバーも適合していくと考えられます。それは訴えている内容(ここでは「協力が必要だ、チームワークだ!」)が信じられる環境であるかに係わっています。(余程、強固な悪性をもったメンバーでなければ適合していくと考えられますが、万一、強固な悪性を持ったメンバーなら早々に職場から離れることがお互いの幸せになると思います。) 

 つまり、たとえその組織と異なる暗黙面の性質を備えた新しいメンバーが加入したとしても、表出面が機能している環境では、その人の暗黙面にも影響を与えることが出来るということです。その為には表出面のミッションや戦略、仕事の進め方などが心から信じられる環境が出来ていることが必要です。

ディーアンドアクト合同会社/宮本好之

2023.07.10  COLUMN 16 : 組織文化醸成論(6)  

組織文化醸成論(

 前回はかなり長い引用ですが、リッツ・カールトンのゴールド・スタンダードの全文を掲載しました。参考になったのではないでしょうか。

 有名な話ですがリッツ・カールトンには、クレド以外にも様々な工夫が組み込まれています。エンパワーメントでは全てのスタッフに1日2,000ドルまでの決裁権が与えられています。必要に応じて自分の判断で上司の決裁を仰ぐことなくお客様のために経費として使用することが出来ます。

 また「ファーストクラス・カード」と呼ばれるスタッフ相互の賞賛の仕組みがあります。スタッフがヘルプを受け感謝の印とて手渡したり、素晴らしい仕事をしたスタッフに贈ったりするカードのことです。スタッフのコミュニケーションツールとしてだけではなく、人事の正当な評価としても使われています。

 しかしこういったものを参考に自社のクレド作成や仕組みを導入したとしても、うまく活用して組織文化の醸成に成功しているところは少ないのではないかと思います。

 組織文化醸成論(4)で紹介しているシャイン氏の理論を参考にした組織文化モデルで言うところの表出面は形だけ真似出来ても、暗黙面がスタッフ一人一人に浸透しなければ実現したい組織文化とはなりません。

 ここからは私個人の見解ですが、リッツ・カールトンの暗黙面には、以下のような暗黙の深い仮定が共有され、従業員一人一人に根付いていると考えています。

・同僚や上司部下は、心の底から信頼出来、尊敬できる存在である(性善説)

・自分にとって組織とは自分自身が大切にされ重視してくれる存在である

・お客様への理解を深めなければ、本当に良い感動できるサービスは出来ない

 リッツ・カールトンでは、従業員は“内部顧客”と呼び、お客様として扱われるようです。それが普段からごく自然に行われているから互いに尊敬し合える存在で、自分自身も大切にされていると感じられるのはないでしょうか。

 こういうことが根底にあるからこそ、自分一人では出来なこともチームで助け合い協力し合いながら、リッツ・カールトン・ミスティーク(神秘性)を生み出していると思います。

 “紳士淑女にお仕えする我々も紳士淑女です”とモットーにあるように、スタッフはお客様と同じ目線で積極的にコミュニケーションを取ろうとする行動が根付いているようです。コミュニケーションを取り、言葉を交わさなければお客様に対する理解を深め信頼関係を築くことが出来ない。そんなコミュニケーションを通して信頼関係が築かれるからこそ、お客様の気持ちを推し量り、言葉にされない気持ちに先回りしてサービスすることが出来ると考えているのだろうと思います。

 共有された暗黙の深い仮定は、ここで挙げたものだけではないと思いますが、こういう事を自らの身体に浸透させることで、リッツ・カールトンの組織文化の本質に触れ、リッツ・カールトンらしいサービスを目指すことが出来るのだろうと思います。

 繰り返しになりますが、表出面のクレド作成や仕組みだけを真似ても思ったようなサービスが実現出来るわけではありません。このことを理解して頂きたいと思います。

ディーアンドアクト合同会社/宮本好之

2023.07.03  COLUMN 15 : 組織文化醸成論(5)  

組織文化醸成論(

 組織文化についてシャイン氏の理論を基に枠組み整理しながら理解を深めてきました。

 しかし組織に置いては、望むような組織文化を醸成するために実践しなければ意味がありません。理論を学び如何に活用するかが求められます。

 企業での事例を考察してみます。

 優れた文化を醸成している企業としてラグジュアリーホテルのリッツ・カールトンを思い起こす方も多いのではないでしょうか。

 一時はブームのように持て囃されたリッツ・カールトンのクレドを参考にホスピタリティを大切にする組織文化を醸成しようとした外食企業やホテルも多かったと思います。

 リッツ・カールトンには、ゴールド・スタンダードと呼ばれるクレドが存在します。

 かなり長い引用ですが、ゴールド・スタンダードの全文を掲載します。参考にしてください。

 

クレド

リッツ・カールトン・ホテルは

お客様への心のこもったおもてなしと

快適さを提供することを

もっとも大切な使命とこころえています。

私たちは、お客様に心あたたまる、くつろいだ

そして洗練された雰囲気を

常にお楽しみいただくために

最高のパーソナル・サービスと施設を

提供することをお約束します。

リッツ・カールトンでお客様が経験されるもの、

それは、感覚を満たすここちよさ、

満ち足りた幸福感

そしてお客様が言葉にされない

願望やニーズをも先読みしておこたえする

サービスの心です。

 


従業員への約束

リッツ・カールトンでは

お客様へお約束したサービスを

提供する上で、紳士・淑女こそが

もっとも大切な資源です。

信頼、誠実、尊敬、高潔、決意を

原則とし、私たちは、個人と会社の

ためになるよう、持てる才能を育成し、

最大限に伸ばします。

多様性を尊重し、充実した生活を深め、

個人のこころざしを実現し、

リッツ・カールトン・ミスティーク

(神秘性)を高める…

リッツ・カールトンは、このような

職場環境をはぐくみます。

 


モットー

“We Are

Ladies and

Gentlemen

Serving

Ladies and

Gentlemen”

(紳士淑女にお仕えする我々も紳士淑女です)

 


サービスの3ステップ

あたたかい、心からのごあいさつを。

お客様をお名前でお呼びするよう

心がけます。

お客様のニーズを先読みし

おこたえします。

感じのよいお見送りを。

さようならのごあいさつは心をこめて。

できるだけお客様のお名前をそえるよう

心がけます。



ザ・リッツ・カールトン・ベーシック

1. クレドは、リッツ・カールトンの基本的な信念です。全員がこれを理解し、自分のものとして受けとめ、常に活力を与えます。

2. 私たちのモットーは、「We are Ladies and Gentlemen Serving Ladies and Gentlemen」です。私たちはサービスのプロフェッショナルとして、お客様や従業員を尊敬し、品位を持って接します。

3. サービスの3ステップは、リッツ・カールトンのおもてなしの基盤です。お客様と接するたびに、必ず3ステップを実践し、お客様に満足していただき、常にご利用いただき、ロイヤルティを高めましょう。

4. 「従業員への約束」は、リッツ・カールトンの職場環境の基盤です。すべての従業員がこれを尊重します。

5. すべての従業員は、自分のポジションに対するトレーニング修了認定を受け、毎年、再認定を受けます。

6. カンパニーの目標は、すべての従業員に伝えられます。これをサポートするのは、従業員一人一人の役目です。

7. 誇りと喜びに満ちた職場を作るために、すべての従業員は、自分が関係する仕事のプランニングにかかわる権利があります。

8. ホテル内に問題点(MR.BIV)がないか、従業員一人一人が、いつもすみずみまで注意を払いましょう。

9. お客様や従業員同士のニーズを満たすよう、従業員一人一人には、チームワークと幅広い協力を実践する職場環境を築く役目があります。

10.従業員一人一人には、自分で判断し行動する力が与えられています(エンパワーメント)。お客様の特別の問題やニーズへの対応に自分の通常業務を離れなければならない場合には、必ずそれを受けとめ、解決します。

11.妥協のない清潔さを保つのは、従業員一人一人の役目です。

12.最高のパーソナル・サービスを提供するため、従業員にはお客様それぞれのお好みを見つけ、それを記録する役目があります。

13.お客様を一人として失ってはいけません。すぐにその場でお客様の気持を解きほぐすのは、従業員一人一人の役目です。苦情を受けた人は、それを自分のものとして受けとめ、お客様が満足されるよう解決し、そして記録します。

14.「いつも笑顔で。私たちはステージの上にいるのですから。」いつも積極的にお客様の目を見て応対しましょう。お客様にも、従業員同士でも、必ずきちんとした言葉づかいを守ります。(「おはようございます。」「かしこまりました。」「ありがとうございます。」など)

15.職場にいる時も出た時も、ホテルの大使であるという意識を持ちましょう。いつも肯定的な話し方をするよう、心がけます。何か気になることがあれば、それを解決できる人に伝えましょう。

16.ホテル館内でお客様に場所をたずねられたら、ただ指さすのではなく、その場所までお客様をご案内します。

17.リッツ・カールトンの電話応対エチケットを守りましょう。呼出音3回以内に、「笑顔で」電話を取ります。お客様のお名前をできるだけお呼びしましょう。保留する場合は、「少しお待ちいただいてよろしいでしょうか?」とおたずねしてからにします。電話の相手の名前をたずねて、接し方を変えてはいけません。電話の転送はなるべく避けましょう。

18.自分の身だしなみには誇りを持ち、細心の注意を払います。従業員一人一人には、リッツ・カールトンの身だしなみ基準に従い、プロフェッショナルなイメージを表す役目があります。

19.安全を第一に考えます。従業員一人一人には、すべてのお客様と従業員に対し、安全で、事故のない職場を作る役目があります。避難・救助方法や非常時の対応すべてを認識します。セキュリティに関するあらゆる危険な状況は、ただちに連絡します。

20.リッツ・カールトン・ホテルの資産を守るのは、従業員一人一人の役目です。エネルギーを節約し、ホテルをよい状態に維持し、環境保全につとめます。

 

 *以上、「リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間」高野昇 著(かんき出版)より

*内容については、随時変更が加えられているとのことですので、現在のものとは相違しているかもしれません。

 

 次回は、リッツ・カールトンの事例を基に分析を深めてみたいと思います。


ディーアンドアクト合同会社/宮本好之

2023.06.23  COLUMN 14 : 組織文化醸成論(4)  

組織文化醸成論(

 組織文化を理解するため、エドガー H.シャイン氏の二つの枠組みを学んで来ましたが、今回はそれを参考にして私なりの考えを改めて整理してみたいと思います。

 理論的な話が続き、飽きてきた方もいるかもしれませんが、もう少し我慢してください。次回から具体的な事例を交えて展開していきたいと思いますので、もう少しお付き合い願います。 

 下図の『組織文化モデル』を確認してください。

 組織文化は、組織メンバー間で確認でき認知されている“表出面”と共有された暗黙の深い仮定、つまり組織メンバー間で意識する、しないに係わらず、当たり前のこととして暗黙裡に共有されている“暗黙面”の二面で構成されています。 

 表出面は、2軸で構成されています。縦軸は、文化レベルの区分です。目に見えて確認出来ることから標榜や価値観など抽象的な概念をカバーします。横軸は、内容・範疇による区分です。外部の環境に適合する生き残りのための仕組みから内部を統制する仕組みをカバーします。この2軸で組織文化を構成するアイテムをプロットしました。

 暗黙面は、シャイン氏の文化レベルの「レベル3:背後に潜む基本的仮定」に該当するところ、及び文化の内容、範疇における「(その3)より深い所に潜む仮定」に該当するところを合わせたものになります。人間関係や人間性の本質に係わる部分においてのその組織内での理解であったり、言葉にしなくても当たり前のように感じられ、行動している信念などであったりです。

 暗黙面(共有された暗黙の深い仮定)は、表出化あるいは言語化されていない可能性があるため、慎重に観察しなければ発見できないかもしれません。発見出来たとして表出面と暗黙面は首尾一貫した連動性はない可能性もあります。それは組織の成長のプロセスでミッションや戦略、システムなどを目指したい方向に変革する必要性があったが、暗黙面が変革しきれていないことが起こり得ます。首尾一貫していないが故に、システムが機能しない、ミッションが浸透しないなどの問題が起こります。

 表出面は、意図したものに形式的に整えることは出来ても、暗黙面と表出面が首尾一貫したものとして組織メンバーに浸透・定着しない限り、意図した組織文化には成り得ません。暗黙面が支配的であり、それと首尾一貫した表出面のミッションや戦略、昇進システム、仕事の進め方であって、はじめて機能することになります。

 その意味に置いて、経営理念、ミッション、戦略を組織メンバー一人ひとりに本質的に浸透・定着させるたには、適切な暗黙面(共有された暗黙の深い仮定)が共有されなければなりません。

 次回からは、この枠組みを基に事例を見ていきたいと思います。

ディーアンドアクト合同会社/宮本好之

2023.06.16  COLUMN 13 : 組織文化醸成論(3)  

組織文化醸成論(

 組織文化は、「組織のメンバーが共有するもの全てを指します」とあり、前回は文化レベルで考えてきました。しかしあまりに広い概念であるため文化の内容についても一定の枠組みで整理する必要があります。

 ここでもエドガーH.シャイン氏がその枠組みを提供してくれています。

(その1)外部における生き残りの問題

・ミッション、戦略、目標

・手段_組織構造、システム、手続き

・測定_誤りの検出と修正システム

(その2)内部統合の問題

・共通の言語と概念

・グループの境界とアイデンティティ

・権限および関係の性質

・報酬および地位の割り当て

(その3)より深い所に潜む仮定

・人間と自然の関係

・現実と真実の本質

・人間性の本質

・人間関係の本質

・時と空間の本質

*「企業文化 生き残りの指針」 E.H.Schein著 白桃書房より

 これだけ見ると、何が何だかわからないと思いますので、私の理解するところを少し捕捉しておきます。

 文化の内容、範疇には、通常一般に考えられるように社内の人間関係や仕事の進め方のように内部に焦点をあてたものだけではなく、与えられた環境の中で、継続組織として存続するために何をどのようにするかの問題を抜きにすることは出来ません。

 ここでは、ある環境下での外部に対処する文化の内容・範疇を「(その1)外部における生き残りの問題」として。そして組織内部で対処する文化の内容・範疇を「(その2)内部統合の問題」として捉えています。

 「(その1)外部における生き残りの問題」では、ミッションが含まれます。組織は社会の中で果たすべき役割や存在する意義が無ければ生き残ることが出来ません。逆説的には生き残っている組織にはミッション(存在意義)があると言えます。存続している組織には創業者の掲げるミッションが成功体験として新たな組織メンバーに信じられ、そのミッションを実現するために組織の戦略や目標に変換されます。また戦略や目標を達成するための環境に適した組織構造や仕事の進め方が構築され、目標の達成度合いを管理する測定システムや修正のシステムが組織に最適な状態で稼働することで組織文化として定着して行きます。

 「(その2)内部統合の問題」では、言語や概念(物事の考え方)があります。これは国家レベルで考えるとわかりやすいです。国が違えば、言語や慣習も異なり自らルールも違ってきます。組織内でのグループへの所属意識の強弱やグループメンバー同士の関係性、報酬や昇進システムなど広範囲なものです。

 そして最後の「(その3)より深い所に潜む仮定」では、意識して物事を実践する前提となる無意識のうちの観念などが対象となります。組織の大半の成員が当然だと思って抱くようになった仮定というものです。組織が属する国における国民性や価値観、道徳的意識、倫理観など、また哲学的な観念や宗教的観念を含む深いところにまで及ぶものです。

  今回、エドガーH.シャイン氏の文化の内容についての二つめの枠組みを見てきましたが、二つの枠組みは私の拙い説明では難しく感じたかかもしれません。次回は、二つの枠組みを参考に私なりの解釈でもう一度整理してみたいと思います。

ディーアンドアクト合同会社/宮本好之

2023.06.08  COLUMN 12 : 日経新聞「役員報酬 働きがいに連動」(2023/6/8)  

日経新聞「役員報酬 働きがいに連動」

 組織文化醸成論を複数回に亘り掲載中ですが、本日(2023/6/8)日本経済新聞に「役員報酬 働きがいに連動」の記事が掲載されていましたので、思うところを記載してみたいと思います。(後日、組織文化醸成論の続きを掲載します)

 “企業価値を生み出す要素として「人的資本」への関心が高まるなか、従業員のエンゲージメント(働きがい)と役員報酬を連動させる動きが広がってきた”(2023/6/8日経)として日立製作所や出光興産などの企業の導入事例を挙げています。

 元来、従業員エンゲージメントが向上すると企業の生産性が高まり企業の業績も向上するとされてきました。そのため近年では、投資家からも従業員エンゲージメント改善の圧力が強まってきていました。従業員エンゲージメント改善は企業として当然の取り組みであると言えます。

 それでは、そもそも従業員エンゲージメントを改善するには何が必要なのでしょうか? 

 少し古い調査データですが、2017年11月に株式会社ビービットが発表した「eNPSは何によって上がるのか ̶16業界eNPS調査結果」と言いうものがあります。従業員ロイヤルティの指標として使われる「eNPS」が何に影響を受けているのか、約5,000名に対して実施した定量調査結果です。

 eNPS要因として想定される、以下5項目の満足度について尋ねました。

・労働時間

・上場有無

・正当な報酬

・正当な評価を得られているか

・顧客への貢献実感

 その分析結果では、

1位:正当な報酬が得られていると感じること(報酬)

2位:正当な評価を得られていると感じること(評価)

3位:顧客への貢献実感を持つこと(貢献実感)

*ランキング:eNPSへの影響が強い要素(重回帰分析結果より)

 以上のようになりました。

 この結果から本日の日経の記事であったように従業員のエンゲージメントを役員報酬と連動させることについて意義あることのように感じますが、ビービットの調査分析には続きがあります。

 5000名の調査を業界別に分類し、「正当な報酬ランキング」と「eNPSランキング」を並べると必ずしも相関しているわけではありませんでした。

 分析によると、「正当に報酬をもらい、評価されること」は仕事をする上で必須であり、これが満たされていないと、eNPSが下がる。正当な報酬と評価だけでは不十分であり、正当な報酬と評価を受けた上で、「顧客への貢献を感じられること」で働くことへの意義を実感し、仕事に誇りが生まれ、企業へのロイヤルティも高まると総括しています。

 この分析は、ハーズバーグの「二要因理論」(動機付け・衛生理論)を証明してくれています。

 ご存じの方も多いと思いますが、衛生要因とは、報酬や福利厚生などのように無ければ不満を生じるが、整備されても大きな満足につながらないものです。動機付け要因とは、貢献実感や承認のように無くてもすぐに不満にならないが、あればある程、前向きになりやりがいになるものです。

 そう考えてみると、役員の報酬は企業により異なりますが、不満の無いレベルにあるのではないかと想像しますので、従業員エンゲージメントを役員報酬に連動させることは、それだけではあまり効果的ではないと考えます。承認や昇進、責任範囲の拡大など動機付け要因を刺激する施策を付加することでより効果的なものになるのではないでしょうか。

ディーアンドアクト合同会社/宮本好之

2023.05.29  COLUMN 11 : 組織文化醸成論(2)  

組織文化醸成論(2)

 「あなたの会社はどんな組織文化ですか?」と問うと、様々な回答が得られます。

・私たちの会社は、保守的で慎重な会社だ。

・私たちの会社は、社員を大切にする家族のような会社だ。

・私たちの会社は、お客様を大切にするお客様志向の会社だ。

・私たちの会社は、オープンで自由闊達な会社だ。

 意思決定の思考であったり、価値観であったり、コミュニケーションの傾向であったり、範疇や内容、レベル感が様々です。

 前回、Chat GPTが回答してくれた「組織文化とは、ある組織が共有する価値観、信念、慣習、行動様式、伝統、言語など、その組織のメンバーが共有するもの全てを指します」とあるように組織メンバーが共有する全てであるからです。

 組織文化を深く理解するために枠組みが必要です。組織文化論の泰斗、エドガーH.シャイン氏がその枠組みを提供してくれています。

 それが3段階の文化レベルです。

レベル1:文物(人工物)・・・目に見える組織構造および手順(解読が困難)

レベル2:標榜されている価値観・・・戦略、目標、哲学(標榜される正当な理由)

レベル3:背後に潜む基本的仮定(=共有された暗黙の仮定)・・・無意識の当たり前の信念、認識、思考および感情(価値観および行動の源泉)

 *「企業文化 生き残りの指針」 E.H.Schein著 白桃書房より 

 レベル1は、社員の服装はカジュアルでドアの仕切りもなく活気があるなどのように、目に見えて事務所などに入れば感じることが出来るようなものです。

 レベル2は、会社の創業者が言い続け実践してきたことであったり、価値観や方針、ビジョンとして語られ、文書などで伝えられていたりするものです。

 レベル3は、創業者たちの信念や価値観や仕事の進め方などが実践され、事業として成功したから故に正しいこととして認識され新しいメンバーを巻き込みながら、当たり前のこととして集団として獲得され共有され受け継がれてきたものです。

 こうして考えてみると、レベル2とレベル3の違いなど分かりづらいですね。

 例えばレベル2で価値観を「組織にはチームワークが必要だ!」と掲げた企業でも間仕切りのないオープンなオフィスでワイワイガヤガヤと活発なコミュニケーションが繰りひろげられる組織がある一方で、他方では個室型のブースが多数あり、静かなオフィスの組織もあります。

 こういう場合、レベル3の共有された暗黙の仮定を考察する必要があります。オープンなオフィスのある企業では、組織を跨いでワイワイガヤガヤと意見を交わす中で新しいアイデアが生まれ、成功体験を重ねたことがあるかもしれません。他方の静かなオフィスの企業は、個人個人が、静かな環境の中でじっくり物事を考え、上司に相談しながら考えを固めていき、上司の指示のもとメンバーの役割分担を決め、プロジェクトを進めることで成功してきたのかもしれません。その上でどちらもチームワークが必要だとの価値観をレベル2で掲げていると言うわけです。 

 “文化、特にその本質を操っているのは、学習され共有された暗黙の仮定である。人々はその仮定をもとにして毎日の行動をとる。その結果、「ここでのやり方」と一般に思われていることができあがってくる“(先述「企業文化 生き残りの指針」より)と言えます。

 次回は、組織文化を深く理解するもう一つの枠組みを見て行きたいと思います。

ディーアンドアクト合同会社/宮本好之

2023.05.10  COLUMN 10 : 組織文化醸成論(1)  

組織文化醸成論

 顧客アンケートを活用した取り組みは、今までCOLUMNで書いてきたこと以外にもとても大きな効果をもたらしてくれます。そしてこれこそが究極の目的でもあります。

それは、顧客視点の組織文化を醸成することです。

 今回からは、非常に重要なテーマとなりますので複数回に亘り組織文化について考えていきたいと思います。

 今、流行りのChat GPTで「組織文化とは?」と質問を投げかけると、

組織文化とは、ある組織が共有する価値観、信念、慣習、行動様式、伝統、言語など、その組織のメンバーが共有するもの全てを指します。組織文化は、組織内の社員の振る舞いや意思決定、コミュニケーションの形式、仕事のやり方、報酬制度、リーダーシップスタイルなどに影響を与えます。また、組織文化は、新入社員や顧客、取引先などの外部の人々にも、その組織の特徴や価値観を伝える役割も担っています。・・・・・

 と、回答してくれました。

 組織文化とは、メンバーが共有する価値観や行動様式など全てであり、振る舞いや意思決定に影響を与えるものであると言うことです。故に組織文化が形成されると意思決定の指針が定まりやすく、自発的な行動が実践されやすくなるメリットがあります。

 そもそも組織文化とは、どのようにして形成され組織に根付いていくのでしょうか?

 組織文化は組織の歴史や業界、地域などの影響を受けると言われています。例えば百年企業とスタートアップ企業では組織文化に大きな違いがあります。百年企業は、上司と部下の明確な関係を意識したコミュニケーションが求められ、長年、蓄積されたノウハウや管理手法で失敗は許容できない組織文化であることが多いのではないかと思います。一方、スタートアップ企業は、オープンなコミュニケーションが求められフラットな組織構造で、新しい技術やイノベーションに取り組み、失敗のリスクも許容し成功を求める組織文化であることが多いと思います。

 業界の相違、例えば重厚長大産業とIT産業でも大きな違いがあります。重厚長大産業では、明確な組織構造のピラミッド型組織で、それゆえ意思決定に時間がかかり安定性を重視する傾向がありそうです。一方、IT産業は、フラットな組織構造でオープンなコミュニケーションが好まれ、急激な環境変化に対応する迅速で柔軟な意思決定が求められます。

 今まで見たように組織文化は、一方的に影響を受けるだけではなく、自らの意思で“あるべき組織文化”を形成することも可能であり、またそうしなければなりません。組織文化の理解は、容易いものではありません。次回から少し時間をかけて考えていきたいと思います。

ディーアンドアクト合同会社/宮本好之

2023.04.24  COLUMN 9 : 品質について考える(3)  

品質について考える(3)

 サービスに関する品質について分析を難しくしているのはサービスが、

・無形性(形が無い、見えない)

・同時性(サービスの生産と消費が同時に行われる)

・消滅性(サービスが提供されると消滅し残らない)

・非均一性(ヒトによってバラツキやすい)

などの特色があるからです。

 製品や商品であれば、目に見える形があり、事後にでも分析が可能です。よって製造時に全数検査やサンプリングで不具合の発見も可能です。しかしサービスは上記の特色により、そういうわけにはいきません。

 飲食店のサービススタッフのサービスについて考えていきましょう。

 サービススタッフには、ご来店されたお客様が食事や会話を楽しみ、不具合無く快適なひと時を過ごしていただくことが求められます。

 サービスマニュアルにあるお出迎えからお見送りまでの所作や接客トークが実施されていても対応するサービススタッフの違いによりお客様の感じ方は違ってきます。

 サービススタッフの声のトーンや言葉遣い、所作、態度・・・

 店長や指導者がいれば、業態コンセプトに基づくサービスが実現出来ているか否か確認、指導が出来ますが、そうでなければ担当するサービススタッフなりのサービスが提供されてしまいます。無形性、同時性、消滅性ゆえサービススタッフなりのサービスが継続し続けることとなります。それを防止するには、覆面視察・ミステリーショッパーの調査や指導者のチェック、及びそれに基づく是正が必要になります。またサービススタッフの基礎力向上のため接客研修などが必要になります。㈱王将フードサービスの事例でも接客スキル向上に向けた「接客対応研修」を新たに開講し人材育成に努めていました。要はチェックによる状況確認とスキルアップ向上の継続的な取り組みが必要です。

 以上のようにサービス品質向上の取り組みには多くの困難性があります。顧客アンケートは、適切な設問を加えることでリアルの顧客からの声を業態コンセプト実現のチェック機能として、またお客様からの評価を測るツールとして活用出来ると考えています。

ディーアンドアクト合同会社/宮本好之

2023.04.12  COLUMN 8 : 品質について考える(2)  

品質について考える(2)

 今回も品質について考えてみたいと思います。

 その前に「COLUMN6:値上げに負けない価値の追求」で記述したことで思い出して頂きたいことがあります。

 見事実践している企業で㈱王将フードサービスの事例を取り上げました。王将は2度の値上げの期中に主要メニューを中心にレシピと調理方法の見直しを行いました。それに加え王将調理道場で調理の底上げと高度化に取り組みました。そして見事、過去最高の売上高を達成しています。

 このことは商品価格に対してより高い価値を付加するためにレシピと調理方法を見直し(設計品質の変更)、王将調理道場での実習を水平展開しどの店舗でも一律の商品を提供できるように提供品質を高めたということだと言えます(提供品質の安定)。

 つまり以下のことが実現したということです。

レシピ・調理方法の見直し 成功!

→ 現場で忠実に再現 成功!

→ 価値の向上 成功!

→ 売上向上

 しかし万一、売上の向上に繋がらなかった場合は、どのように考えれば良いでしょうか?

レシピ・調理方法の見直し 成功!or失敗!! (わからない)

→ 現場で忠実に再現 成功!or失敗!! (わからない)

→ 価値の向上 失敗!!

→ 売上減少 

 上記の状態では、レシピ・調理方法の見直しが成功だったのか失敗だったのか分かりません。現場で忠実に再現されていることが確認出来ればレシピ・調理方法の見直しが失敗だったと確認出来ます。

 つまり顧客アンケートなどを改善のための活用可能なデータとするには、マニュアルや作業標準書通り実行されている必要があるということです。業態コンセプトに沿って作られたレシピやサービスマニュアルが現場で忠実に再現されたが、お客様のニーズに合致していなく好評価を得られなければ、設計品質を変えていく必要があります。

 ㈱王将フードサービスの場合には、値上げという価値と価格のバランスの変化への対応として価値の向上を目指してレシピ・調理方法の見直し設計品質を高め、その設計品質を忠実に実現するためにスタッフの能力を高め提供品質を損なうことがなかったということが出来ます。そしてその評価対象の提供品質もお客様にも好評を得たということだと考えられます。

 しかしサービスに係わるところでその実現には困難があります。次回はそのことを考えてみたいと思います。

ディーアンドアクト合同会社/宮本好之

2023.03.31  COLUMN 7 : 品質について考える(1)  

品質について考える(1)

 顧客アンケートを通した改善活動では注意すべきことがあります。飲食店であれば評価対象である料理やドリンク、スタッフの接客サービスなどバラつきがあると評価の信頼性は薄れてしまいます。

 今回はそもそもその提供している品質について3回に亘り考えてみたいと思います。

モノづくりにおける品質には、企画品質、設計品質、製造品質、顧客品質といったものがあります。

企画品質は、ニーズに基づくコンセプトに盛り込む品質

設計品質は、狙いの品質

製造品質は、出来栄えの品質

顧客品質は、お客様にとっての品質(要求品質、使用品質)

と考えられています。

 ちょっと小難しくなってきたので飲食店の場合の料理を考えてみると、企画品質は、業態コンセプトに基づいあるべき料理の品質です。

 設計品質はレシピです。企画品質に基づいて実現可能な素材や調味料、原価、調理方法、盛り付けなどを設計しています。

 製造品質は、実際の店舗の営業オペレーションの流れの中で、レシピを基に調理された料理です。

 顧客品質は、お客様が店舗に入りメニューや値段を見て、期待した要求品質に対して実際に提供されて実際に見て味わって感じた品質です。

 飲食店の接客サービスにおける企画品質は業態コンセプトに基づくあるべきサービス品質です。

 設計品質はサービスマニュアルで、企画品質に沿って設定したサービス手順や接客トークが実現可能なところに設計されます。

 製造品質は、実際の店舗の営業オペレーションの中で、マニュアルに沿って実施される接客サービスです。

 顧客品質は、お客様が来店されてから受けられると期待していた要求品質に対して実際に受けたサービスで感じた品質です。

 製造品質という言葉は、サービス業などにおいては違和感がありますので、ここでは提供品質という言葉を使いたいと思います。

 顧客アンケートの分析において重要なことは、設計品質と提供品質の差異を限りなく少なくすることです。お客様が評価している対象は、オペレーショの流れの中で提供された提供品質です。その提供品質が設計品質を忠実に再現していない場合やスタッフによってバラついているとせっかく集めた顧客アンケートも現状の店舗力としての評価としては意味があるものの改善のためのデータとして活用出来ません。改善のための活用可能なデータとするには、マニュアルや作業標準書通り実行されている必要があるということです。

 次回は、もう少し具体的な話で分かりやすくお伝えしたいと思います。


ディーアンドアクト合同会社/宮本好之

2023.03.13  COLUMN 6 : 値上げに負けない価値の追求  

値上げに負けない価値の追求

 「COLUMN1:顧客アンケートのすすめ」で値上げ圧力が高まっている中で、顧客アンケート活用のご提案をさせて頂きました。その中で次のように記述しました。

客離れを防ぐには顧客が支払う費用に対して、より高い価値を感じてもらうことが必要です。たとえ値上げしたとしても、それを上回る価値を提供出来ているとすれば客離れは起きないはずです。

 これこそ「言うは易く行うは難し」と言うことだと思いますが、見事実践している企業があります。

 「餃子の王将」を展開する㈱王将フードサービスは、昨年5月14日にグランドメニューの2割の商品を20~30円値上げ、更に11月19日から35商品を11~55円の2度目の値上げを実施しました。本年2月14日に発表された第49期第3四半期報告書によると22年2月から12月まで11ヵ月連続で同月比過去最高を達成して前年同期比10%の増収で過去最高となっています。(営業利益18.2%増益)

 料理の美味しさを実現するため主要メニューを中心にレシピと調理方法の見直しを行い王将調理道場と呼ばれる調理実習を実地及びオンラインで行いました。王将調理道場を受講した調理スタッフが他のスタッフに受講内容を伝授することで調理の底上げ・高度化を図りました。調理技術の応用力を養う「調理技術知識研修」や接客スキル向上に向けた「接客対応研修」を新たに開講し人材育成に努めました。その他お客様感謝キャンペーンなど積極的な販売促進策を展開した結果が奏功したと考えられます。

 ㈱コメダホールディングスが23年1月13日に発表した23年2月期第3四半期報告書によると、コーヒー豆や小麦粉等の原材料価格やエネルギーコスト高騰の影響を受け、22年4月から順次メニュー価格の値上げを実施、FC加盟店に対する卸売り価格も9月より値上げを実施しました。第3四半期連結累計期間におけるFC加盟店向け卸売の既存店売上高前年比105.1%、全店売上高前年比は108.9%となり、コロナ禍前の卸売売上の水準を上回ったとのことです。

 メニュー価格値上げに対して、モーニングサービスに付加価値を加えるなどお客様の店舗体験価値を高めるためのQSC向上施策を実施したほか、人気商品「ブラックサンダー」とコラボした「シノワール ブラックサンダー」を販売した効果だと分析しています。

 2企業の事例を掲げさせていただきましたが、同じことをやって全てが上手くいくということではありません。もちろん外食業界であれば業界ならではの原則は押さえつつ、それぞれの企業にとっての最適な戦術や打ち手があるはずであり、置かれた環境に留意して効果的な打ち手を見つけ出し実践しなければなりません。やりたいことは山のようにあっても限られた資源、限られた人材で全てを実践するわけにはいきません。そのために顧客アンケートの分析を通して優先的に取り組む焦点を絞り込む必要があると私は考えています。

ディーアンドアクト合同会社/宮本好之

2023.03.01  COLUMN 5 : 集めた顧客アンケートデータの活用方法  

集めた顧客アンケートデータの活用方法

 顧客アンケート収集に真摯に取り組むことでも、大きな成果があると申し上げてきました。しかし、本来の目的は顧客アンケートを活かして改善に取り組むことで多くのお客様にファンになって頂き、もっと自社や自店を応援してもうらことです。

 大切に集めた顧客アンケートをどのように活用すべきでしょうか?

 活用の方法には3つあると思っています。

 一つ目は、現状の顧客を把握することです。質問する内容にも関わりますが、性別、年齢、利用頻度など様々な顧客属性が把握出来ます。想定したお客様が来店しているのか、また来店した客層が自社や自社のサービスをどのように評価しているか理解出来ます。

 二つ目は、自社の強み・弱みを把握することです。例えば、飲食店の場合では繁盛するため重視するポイントとして必要な要素にQSCAという切り口があります。

・Q(Qualityクオリティ:商品の品質)

・S(Serviceサービス:接客などのサービス)

・C(Cleanlinessクレンリネス:店舗などの清潔感)

・A(Atmosphereアトモスフィア:店舗の環境・雰囲気)

 上記に関する質問を適切に加えお客様から評価してもらうことで自店の秀でているところ、劣っているところが相対的に把握出来ます。「自分のお店は、料理は満足してもらっているが、接客は厳しい評価だ」ということが分かれば対策の焦点が絞れます。

 三つ目は、測ったデータを時系列に観察することです。もちろん何も対策しないで数字だけ追っても意味はありません。何か問題と想定されるところを対策し、より良く感じてもらえることを実施して、その結果をデータで観察するということです。データを活用する意味に置いてこのことが一番重要であると思っています。時系列に観察することによって、改善した取り組みに効果があったのかどうかが判断出来ます。この手法を活用することで飲食店であればメニューを変更した場合の検証や販売促進キャンペーンなどの効果を顧客の感情レベルで測定出来ます。

 是非、データを活用するスキルを高めて効率的な改善取り組みを実施してもらいたいと思います。

ディーアンドアクト合同会社/宮本好之

2023.02.09  COLUMN 4 : アンケートを集める行動自体の効果とは・・・?  

アンケートを集める行動自体の効果とは・・・

 店舗や企業のスタッフが効率的に顧客アンケートを収集するには、オペレーションの工程を追加して頂く必要があることを述べました。

 アンケートを収集することは、店舗やサービス改善を図る目的のための手段のひとつですが、その手段にもサービス改善の大きな効果があります。

 一つ目は、アンケート収集の自主的な努力効果です。アンケートを集めるという目標を立てれば、健全な組織であればスタッフは店舗オペレーションの工程に沿って活動してくれます。単純にアンケートお願いの接客トークをお伝えするだけでは、一定数は確保できるもののそれ以上ではありません。アンケート獲得数や獲得比率(来店者全体に対するアンケート数)など目標を立てると健全な組織には自主的な努力が期待できます。少しでもお客様が喜んで回答頂くように、スタッフはより丁寧にお客様をオモテナシし、楽しませようと活動してくれます。お客様も一生懸命モテナシてくれたあのスタッフからのお願いなら応えてあげようという気になります。アンケート回答のプロセスの中に顧客関係強化の仕掛けが組み込まれます。

 二つ目は、評価向上の自主的な努力効果です。アンケートにおいてお客様がどのような質問に回答するのかスタッフが内容自体を理解していることによって、自分たちの行動の意識は高まります。例えば、「来店時の対応はどうか?」であれば、今まで挨拶の声が小さいスタッフであっても意識を高めることが出来れば元気な声になります。また顧客評価を日々確認するようになると評価を高めるために、元気な明るい声でご挨拶し歓迎の意識を持ってお出迎え出来るようになります。スタッフの自主的な向上心が期待できます。

 性善説的な見方が過ぎるよとおっしゃる方もいるかもしれませんが、私はこの力を信じています。同じチェーン店であっても、素早くアンケートを収集出来る店舗は、往々にして店舗の評価は高い傾向にあります。

 以上のような自主的な努力を期待するには、アンケート収集の目標値を設定しゲーム感覚で楽しく競いながら達成を目指す仕掛けがあると効果的です。またスタッフにはお客様への質問内容をよく見てもらい、店舗や自分たちのどんなところがお客様から評価されているのか理解してもらっておくことが必要です。

 そうすればそのスタッフは自分たちの評価内容も気になりますし、日々どのように評価されているか確認し、行動を見直してくれると期待出来ます。

 顧客アンケートの効果を実感出来ていない企業であれば、ここまで実践していただくことでも十分な効果があると思います。是非、試してみてください。 

ディーアンドアクト合同会社/宮本好之

2023.02.01  COLUMN 3 : 情報収集力を高めるには・・・? 

情報収集力を高めるには・・・?

 顧客アンケートを始めようとしても、なかなかお客様からアンケートが集まらないことが往々にして起こります。さてどうすれば良いでしょうか?

 テーブルにアンケートの案内を設置したり、レシートに案内のQRコードを印字したりするだけで自然にお客様がアンケートに答えてくれることは稀でしょう。残念ながら特効薬というものはありません。愚直に基本に忠実に行動するしかありません。といってもそれほど難しいものでもありません。それは店舗オペレーションに工程を取り込むことです。

 飲食店であれば、お客様がご来店されれば「いらっしゃいませ」と歓迎のご挨拶をするでしょう。それからお席にご案内します。お店によっては、おしぼりをお渡ししたり、メニューをお見せしたり・・・、お食事がお済になられたらお茶をお持ちしたりするなど、お店のマニュアルがあると思います。マニュアルなど可視化されたものが無くてもおもてなしのルールや慣習があります。そのような店舗オペレーションに「アンケート回答のお願いをする」工程を明確に加えることです。当たり前のように実施している料理を提供したり、空いたお皿をバッシングしたりする作業と同様に「アンケート回答のお願いをする」工程を組み込んでください。

 店長がスタッフにアンケートを集めるよう指示をしているけど、集まらないという方がいるかもしれません。しかしそれだけでは十分ではありません。ベテランのスタッフなら指示するだけで成果を上げる方もいるかもしれませんが、店舗では誰でも新人でも出来ることが必要です。そのためにお勘定の伝票をお持ちする時に、アンケートの旨をお伝えすることや、レシートをお渡しする時にQRコードを読んでアンケートにお答えいただきたい旨をお伝えするなど、オペレーショの流れの中でどのタイミングでどのようにお伝えするか明確にスタッフに理解してもらい行動してもらうことが必要です。

 アンケート収集の確率を高めるには、お客様にお伝えする接客トークも工夫する必要があります。アンケートはどのように活かされ大切にされているかお客様に具体的にイメージしてもらえるとより効果は高まります。


 例えば・・・

「本日は、ご来店ありがとうございました。」                     「お食事はご満足いただけたでしょうか。」

「もしよろしければアンケートにお答えいただけますでしょうか?」

「アンケートは、毎日スタッフ全員で確認させていただいています。」

「もしお褒めいただければ、私たちも嬉しくなって元気になりますし、」

「お叱りなどあれば、可能な限り改善に努めて参ります。」

「是非、ご協力をお願いします。」


 お店のコンセプトや雰囲気に合わせて接客トークを工夫してオペレーションに組み込んでみてください。


 アンケートを収集する目的は、お客様の感情を把握しアンケート内容を分析して改善に繋げることですが、アンケートを集める行動自体にも効果があります。


 次回はそのことをお知らせしたいと思います。

ディーアンドアクト合同会社/宮本好之

2023.01.11  COLUMN 2 : 4つの力で顧客ロイヤルティ向上を実現

4つの力で顧客ロイヤルティ向上を実現

 公益財団法人日本生産性本部では、毎年、日本版顧客満足度指数を発表しています。22年度の第1回調査結果として飲食など9業種(百貨店その他)のスコアが発表されました。19年、20年とスコアの上昇が見られたものの、21年は下降、22年も多くの業種で下降が継続していました。

 サービス産業はコロナ禍も含め原材料高などを背景に、より一層顧客ロイヤルティ向上に取り組む必要性に迫られています。サービス改善のために顧客アンケートを活用している企業も増えてきていますが、その情報を基にサービス改善に成功しているところはそれ程多くないのではないかと感じます。成功に導くには4つの力が必要であると考えています。

 一つめは情報収集力、アンケートを収集する力で前回のコラムでも書きましたが、企業や店舗スタッフがアンケートを集めることは負荷がかかることで。お客様にとっても負担に感じることでもあります。お客様がアンケートに答えてあげたいと感じるには、負担を上回る価値を提供する必要があります。企業や店舗のスタッフの皆さんにおいては、アンケートを収集するという工程を一つ増やす必要があり、さらにお客様が喜んで答えてあげたいと感じるようにおもてなしする必要があります。

 二つめは分析力、アンケートを集計可視化し顧客の期待と現場の活動を読み取る力でアンケートの活用ではお客様のクレームなどの対処に終始するところが多いように感じますが、アンケートからお客様が重視しているところや自らの弱みを把握する必要があります。お客様の期待とスタッフの行動のギャップを認識し、行動を再設計する必要があります。

 三つめは実践力、再設計した改善行動を確実に実践する力で改善行動を実践し、お客様からその体験を新たに評価してもらう必要があります。改善が本当にお客様にとって価値があったのか知るためには、全てのお客様に同じ体験をしてもらい評価してもらう必要があります。実践されてこそ評価の対象となり得るのです

 四つめは推進力、組織のキーマンが、スタッフの理解を育みながら物事を推し進める力です。係わる全てのスタッフが自信を持って進められるようキーマンが信念を持ってスタッフを導く推進力を発揮することが成功への鍵であると私は考えています。 

 四つの力を発揮し、顧客ロイヤルティ向上を実現してもらいたいです。

ディーアンドアクト合同会社/宮本好之

2022.12.29 COLUMN 1 : 顧客アンケートのすすめ

顧客アンケートのすすめ

 エネルギーや原材料高騰などを背景に外食産業や小売業など様々な業界で値上げ圧力が高まっています。しかし客離れの恐れもあり、安易に値上げ出来る環境ではありません。どのように対処すべきなのでしょうか?

 客離れを防ぐには顧客が支払う費用に対して、より高い価値を感じてもらうことが必要です。たとえ値上げしたとしても、それを上回る価値を提供出来ているとすれば客離れは起きないはずです。

 顧客が感じている価値は、どのように把握すれば良いでしょうか?

 そのために顧客アンケートをおすすめしたいと思います。顧客アンケートを継続的に収集することで顧客と企業・店舗のサービスとの関係性を時系列で知ることが出来ます。顧客の評価に一喜一憂するのではなく、アンケートを工夫することで顧客が何を求め、何に不満を感じているか、企業や店舗のサービスの何を評価してくれているかが理解出来るようになります。自らの強み、弱みを把握し改善することでサービス内容の向上、ひいては価値の向上が期待出来ます。

 顧客アンケートは、サービス業にとって有用なツールですが、現場でのアンケート収集はそれ程容易ではありません。同じチェーン店であっても速やかに収集できるところ、そうでないところと格差が大きいことも起こります。

 企業・店舗のスタッフが自らの力でアンケートを集めることは負荷がかかることであります。お客様にとっても負担に感じることでもあります。それでもお客様がアンケートに答えてあげようと感じてもらえるようにするには、企業・店舗に好感を持ってもらうことが必要です。要はお客様にアンケートを答えてもらうこと自体が顧客ロイヤルティを高める第一歩ということになるでしょう。まずは顧客アンケートを集めてみることからスタートしてみませんか?

ディーアンドアクト合同会社/宮本好之